平成23年度税制改正

平成23年度の相続・金融税制|案と実施の違い

大きな眼鏡を掛けた木製の家と豚の貯金箱が、二つのカレンダーを比較する税制の歴史のイメージ

平成23年度の相続税を調べると、「基礎控除が3,000万円になった」という当時の解説と、現在の制度沿革が食い違って見えることがあります。理由は、大綱に盛り込まれた案が、そのまま実施されたわけではないためです。この年度は、相続税の大きな見直し案と、成立した金融・証券税制の改正を分けて読むことが大切です。

この記事は平成22年12月16日公表の大綱を出発点に、翌年の審議結果と後年の改正を照合した歴史解説です。過去の取引や相続を確認するときに、年度名だけで適用する制度を決めないための比較表と確認順序を紹介します。

平成23年度の相続税改正案はどうなったか

大綱は、相続税の負担範囲と税率を見直す方向を示しました。しかし、主要な見直しは国会審議の結果、平成23年度には見送られています。当時の記事の「変更される」という記述を、実施済みの説明として読むと、適用年を誤るおそれがあります。

基礎控除の引下げと最高税率の見直し

当時の案は、遺産に係る基礎控除を「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」から「3,000万円+600万円×法定相続人の数」に引き下げる内容でした。最高税率を50%から55%へ引き上げることも盛り込まれています。たとえば法定相続人が3人なら、計算上の基礎控除は8,000万円から4,800万円へ変わる案です。この差を、平成23年に既に適用された差として扱わないでください。

出典:財務省の当時の法律案要綱・第三。

案の公表と実施時期を区別する
時点 相続税の基礎控除・税率の位置付け
平成23年度大綱 基礎控除の縮小、最高税率55%などを提案
平成23年の審議結果 これらの主要な見直しは見送り
平成25年度改正 基礎控除の引下げと税率構造の見直しを実現
平成27年1月以後 平成25年度改正の基礎控除・税率を適用

平成24年度大綱は、前年の相続税・贈与税の主要な改正事項が見送られたことを明記しています。また、財務省の改正沿革は、基礎控除の引下げ等を平成25年度改正、平成27年1月から実施と整理しています。内容が似ていても、別の年度の案と法律を同一視せず、適用時期を確認しましょう。

出典:翌年度の大綱資料7ページ、財務省の相続税の改正沿革。

贈与税も当初案と実施を分ける

大綱には、子や孫への資産移転を促すため、直系卑属が受ける贈与の税率を緩和する案や、相続時精算課税の対象を広げる案もありました。これらも平成23年度に盛り込まれた主要な見直しとして、翌年度資料で見送りが確認できます。「大綱にある」ことと「その年の贈与に使える」ことは別です。過去の贈与を検証するなら、当時の成立法と適用規定に戻る必要があります。

金融・証券税制は何が変わったか

金融分野では、株式投資の軽減税率を延長し、それに合わせて少額投資の非課税制度の開始時期を動かしました。相続税の主要案が見送られたからといって、その年度の全ての改正が見送られたわけではありません。項目ごとに成立後の説明資料を確認します。

10%軽減税率を平成25年末まで延長

一定の上場株式等の譲渡所得等について、10%の軽減税率の期限が平成25年12月31日まで2年間延長されました。当時の基本的な内訳は所得税7%、住民税3%です。これは現在の税率の説明ではありません。また、平成25年分の実際の負担を計算するときは、後に導入された復興特別所得税を含む、その年の取扱いを確認してください。

日本版ISAの開始予定を平成26年へ延期

軽減税率の延長に伴い、日本版ISAと呼ばれていた少額投資非課税制度は、平成26年1月1日からの適用へ2年延期されました。平成22年度の記事にある「平成24年開始予定」と、平成23年度の記事の「平成26年開始予定」は、異なる改正時点の説明です。後の改正による非課税期間などの変更もあるため、開始年だけを読み替えて、当初の条件を全て実施後の条件とすることはできません。

成立後資料で確認できる金融分野の変更
項目 変更の要点 時期
株式の軽減税率 適用期限を2年延長 平成25年末まで
少額投資非課税制度 施行を2年延期 平成26年1月から
相続等で受け取る株式 一定の株式について別の金融機関の特定口座への移管も整備 平成23年6月30日以後の受入れ

出典:成立後の公的説明資料1~2ページ。特定口座への受入れには、元の口座や株式の状況などの条件があります。

店頭デリバティブ取引の扱いを市場取引に合わせる

金融庁資料では、従来は総合課税だった一定の店頭デリバティブ取引等を20%の申告分離課税とし、市場取引との損益通算と、損失額の3年間の繰越控除を可能にする措置が示されています。適用は平成24年1月以後です。制度の狙いは、経済的な性質が似ている取引の税負担の違いを小さくすることでした。

ただし、損失を繰り越せるという説明だけで、全ての金融商品の利益から差し引けると考えるのは早計です。対象となる取引の区分と申告要件を確認します。たとえば店頭FXの損失を調べる場合でも、その取引年と業者・契約の条件を先に整理することで、株式の損益との混同を避けられます。出典:金融庁の改正説明7ページ。

公表日と適用日を混同しない確認方法

この年度を調べるときは、まず資料がどの段階のものかを確認します。大綱、法案、成立後の説明では、同じ項目でも確定の程度が違うためです。

平成22年12月:大綱で方針を公表
↓
平成23年:項目ごとに審議・成立または見送り
↓
成立した項目は、それぞれの適用日を確認
大綱の年度名だけでは適用時期は決まりません。
  • 対象の出来事の日付を記録する。相続・贈与・株式売却・口座への受入れでは、確認すべき日付が異なります。申告日だけを手掛かりにせず、制度の適用規定が基準とする出来事を特定します。
  • 記事が案を説明しているか確認する。「予定」「法案」「見送り」といった言葉を読みます。相続税の基礎控除のように、後年に同様の見直しが実現したものでも、当初案の適用予定日が実施日になったとは限りません。
  • 成立後の資料で条件を照合する。税率や上限の数字だけでなく、対象商品・口座・申告要件まで確認します。金融分野では、非課税制度と損失の繰越制度を別々に確認すると整理しやすくなります。

平成23年度の特徴は、資産課税の抜本的な見直し案が示された一方、金融分野では期限延長や取引間の整備が進んだことです。過去の資料を比較するときは、「何が提案され、何が成立し、いつ適用されたか」の3点を並べてください。

公開日は、内閣府の公表記録にある平成22年12月16日に設定しています。民主党政権期の政府税制調査会による大綱を基準とし、見送りや後年の実施については混同を避けるため付記しました。

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