平成4年度(1992年度)の個人所得課税では、みなし法人課税の特例が廃止され、青色申告特別控除制度が創設されました。一定の記帳・申告要件を満たす事業者には35万円、それ以外の青色申告者には10万円の控除を認める仕組みです。
重要なのは、これらの変更が平成5年分(1993年分)の所得税から適用される点です。「平成4年度改正だから平成4年分から35万円」とはなりません。改正の背景、控除の意味、経過措置を順に確認しましょう。
平成4年度改正の要点と適用時期
今回の改正は、個人事業の所得計算と記帳制度の見直しです。法人を設立した人の法人税制度とは区別して理解する必要があります。
| 項目 | 平成4年度改正の内容 | 適用 |
|---|---|---|
| みなし法人課税 | 個人事業者向けの選択特例を廃止 | 平成5年分以後の所得税 |
| 青色申告特別控除 | 一定の要件を満たす場合35万円、その他10万円 | 平成5年分以後の所得税 |
| 従来の青色申告控除 | 新制度への移行に伴い廃止 | 平成4年分以前は従前の取扱い |
新制度が対象とするのは事業所得や、事業としての不動産所得などです。給与を受け取っているだけの人が、新たに35万円の控除を使えるという改正ではありません。
みなし法人課税はなぜ廃止されたのか
みなし法人課税は、個人事業者が実際に法人になる制度ではなく、一定の選択により、事業主報酬などを分けて所得税を計算する特例でした。平成4年度改正では、課税の適正・公平を図る観点から廃止されました。
個人事業を法人に見立てて計算する特例
従来の仕組みでは、事業所得等の一部を事業主報酬として分け、給与所得控除を適用するなど、法人に似た計算を行いました。しかし、個人の事業に法人格が与えられたり、会社登記が自動的に行われたりするものではありません。
そのため「特例の廃止」を、会社の設立や法人化そのものができなくなったと解釈するのは誤りです。廃止されたのは、個人の所得税に設けられていた選択特例です。
経過措置を含めて平成4年分と5年分を分ける
改正法は、従来の選択をしていた人の平成4年分以前の所得税について、なお従前の例によるとしています。一方、平成4年4月1日以後に新たに事業を開始した人を除くなど、平成4年分にも経過措置が設けられました。
過去の申告を調べる際は、制度の廃止年度だけでなく、事業開始日、選択の状況、対象年分を確認します。継続事業者と新規開業者を一律に扱わないことが大切です。
35万円の青色申告特別控除を創設
みなし法人課税に代わる見直しの柱が、青色申告特別控除です。正確な記帳に基づく申告を広げるため、所得計算で一定額を差し引く仕組みが整えられました。
正規の簿記と申告書類が基本
制度の基本は、事業所得又は不動産所得を生ずべき事業を営む青色申告者が、取引を正規の簿記の原則に従って記録することです。改正法では、申告書に控除の適用と計算に関する事項を記載し、貸借対照表や損益計算書などを添えて、提出期限までに提出する要件が定められています。
- 帳簿に取引を記録する:入出金の合計だけでなく、売掛金、買掛金、資産、負債などを含めて事業の状態を把握できる記録が必要です。
- 決算書と帳簿を対応させる:貸借対照表は決算日時点の財産と負債、損益計算書はその年の収益と費用を示します。書類を添えるだけでなく、帳簿との整合を確認します。
- 期限と記載事項を確認する:対象所得や記帳要件に加え、期限内提出や控除額の記載も制度の要件です。控除額だけを見て判断しないようにします。
当初5年間の経過措置も設けられた
新制度の導入時には、平成5年分から平成9年分までの5年間について記帳要件の経過措置が設けられました。要綱では、当分の間、損益計算書に加えて貸借対照表を添付している者にも35万円の控除の適用を認めると説明されています。
これは、その後の制度が永続的に同じ要件だったことを意味しません。後年の控除額の引上げや電子申告の要件を、創設当時に持ち込まないようにしましょう。
35万円は税金から直接引く金額ではない
青色申告特別控除は、対象となる所得の計算で差し引く額です。35万円を受け取れる給付金でも、所得税額をそのまま35万円減らす税額控除でもありません。
控除前の事業所得が100万円の例
35万円控除の要件を満たし、他の対象所得や調整がないと仮定すると、控除後の事業所得は100万円-35万円=65万円です。その後に他の所得との合算や各種控除、税率の適用などを行うため、この例だけで最終税額は決まりません。
| 控除前の対象所得 | 控除額の例 | 控除後の対象所得 |
|---|---|---|
| 100万円 | 35万円 | 65万円 |
| 20万円 | 20万円 | 0円 |
改正法では、35万円と対象所得の合計額のいずれか低い金額を控除します。したがって、対象所得が20万円なら控除は20万円までです。控除だけで所得をマイナス15万円にする計算にはなりません。
10万円控除との違いも確認
35万円控除の対象とならない青色申告者については、10万円の控除が設けられました。こちらも、対象となる不動産所得、事業所得、山林所得の合計額などとの比較による上限があります。青色申告の承認を受けたことだけで、必ず35万円を差し引けるわけではありません。
住宅取得促進税制は適用期限を延長
個人所得課税では、青色申告の見直し以外に住宅関係の特例も扱われました。平成4年度の要綱では、住宅取得促進税制と、給与所得者等が住宅資金の貸付け等を受けた場合の課税の特例の適用期限を、それぞれ2年延長するとされています。
延長とは適用期間をつなぐ改正です。現在の住宅ローン控除の控除率や借入限度額が、当時も同じだったという意味ではありません。過去の住宅取得について調べる場合は、入居時期と当時の対象要件を確認します。
平成4年度の個人所得課税を調べる手順
この年度は、制度を決めた年度と適用年分を切り分けることが特に重要です。過去の申告書や制度の沿革を確認するときは、次の順で整理しましょう。
平成4年度改正の中心は、みなし法人課税を廃止し、記帳と申告を重視する青色申告特別控除へ移行したことです。適用は平成5年分からと押さえれば、創設当時の35万円控除と後年の制度を整理しやすくなります。
出典:平成4年度税制改正の要綱、平成4年法律第14号(租税特別措置法の一部を改正する法律)、財務省『平成財政史』所得税その2。本文は当時の改正を解説したものです。








